モモは、なにもかもがさかさまだったあの〈さかさま小路〉を歩いていたときのことを思いだしながら、たずねました。
「あなたは死なの?」
マイスター・ホラはほほえんでしばらくだまっていましたが、やがて口をひらきました。
「もし人間が死とはなにかを知ったら、こわいとは思わなくなるだろうにね。そして死をおそれないようになれば、生きる時間を人間からぬすむようなことは、だれにもできなくなるはずだ。」
「そう人間におしえてあげればいいのに。」
「そうかね?わたしは時間をくばるたびにそう言っているのだがね。でも人間はいっこうに耳をかたむける気にはならないらしい。死をこわがらせるような話のほうを信じたがるようだね。これもわからないなぞのひとつだ。」
ドイツ人作家、ミヒャエル・エンデが1973年に出版した『モモ』。その作中に、興味深いセリフを見つけました。
「もし人間が死とはなにかを知ったら、こわいとは思わなくなるだろうにね。そして死をおそれないようになれば、生きる時間を人間からぬすむようなことは、だれにもできなくなるはずだ。」
これは、神様を信じていなければ言えないセルフだと思うのですが、みなさんいかがでしょうか?
『モモ』は、
時間どろぼうと、ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子の不思議な物語
です。
時間を一人一人に配っている「マイスター・ホラ」は神様のようにも思えます。
時間泥棒の灰色の男たちは、人間を騙して魂を奪う悪魔のようにも思えます。
作者のミヒャエル・エンデは、1970年からイタリア、ローマの近郊に住んで、『モモ』や『はてしない物語』を執筆したそうです。
『はてしない物語』は私の子供時代のお気に入りでした。
ローマ近郊に住んで、おそらく神様を信じていたエンデ。ますます好きになりました。
他の作品も読んでみたいと思います。